#0226 1976年5月18日 井野信義 @銀座スイング
● 最近、若手ベーシストの充実ぶりは著しい。例えば、岡田勉、井野信義、望月英明、大由彰、翠川敬基、そしてエレキの岡沢章等々。中でもその急成長と充実度において最も著しいのがここで取り上げた井野だと思う。それは例えば、日野元彦の最新アルバム「流氷(TBM-61)」での傑出したソロ・プレイを一聴されれば明かであろう。
昭和25年3月生まれのこの男のジャズ歴は、高校卒業後ロック・バンドをやっていた時、当時六本木の「ネロ・ビアンコ」に出ていたベースの鈴木勲と出会ったことから始まる。彼の引きで自由ヶ丘の「5スポット」に出演するようになって昭和46年プロ入り。
従って、彼のジャズ歴における第1のキーパーソンとも言うべき師は鈴木勲であったが、彼がそれ以上にジャズ、さらに人間として、精神、技術の両面に渡って大きな影響を受けたのは、前衛ジャズの分野で活躍するギターの高柳昌行である。
4年前、高柳と知り合って以降、主流派ジャズのグループは中村誠一、土岐英史等いくつか変わったが、前衛分野では、昨年末まで、常に変わらずこの高柳昌行のニュー・ディレクションに加わってきたのである。
「創作と創意はちがう。ジャズは小手先で作るのではなく、心で創るのだ」あるいは「日本でのジャズの演奏は、その歴史の浅さを見透してやれ」等々、彼のジャズの根底に係わる数多くの教えを受けたという。
そして、現在の井野のジャズへの基本スタンスは「一生ジャズを続ける」と言うところにあると言う。そのためには「感性とか感情のみに頼ったプレーは長続きしない。生活-人間-日本人といった泥臭さ、より深く根源的な所から出るジャズをやっていく」と力強く言い切る。
今年に入ってからの演奏活動の中心は日野元彦4である。この日野元彦というジャズしか知らぬ男の凄さに学ぶ点も極めて多いという。事実、このコンボへの参加は彼のプレイを何重にも大きく成長させたと思う。その結果、現在日本の最も充実したこのグループの大きな柱の1本としてその演奏を力強く支えている。
26才・体重86キロ・童顔・出っ腹・一男一女の父。広く、温かく、深い、それでいてその風貌に似ず鋭いジャズ・フィーリングを持つこの好漢の着実な前進に、是非ご声援あれ!!
(スイングジャーナル誌 1975年5月号より転載/文:藤井健夫)
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